Summertime


Summertime and the livin' is easy
Fish are jumpin' and the cotton is high
Oh your Daddy's rich and your ma is good lookin'
So hush little baby, don't you cry
One of these mornings
You're goin' to rise up singing
Then you'll spread your wings
And you'll take the sky
But till that morning
There's a nothin' can harm you
With daddy and mammy standin' by
ジョージ・ガーシュウィンが1935年に書いたオペラ『ポーギーとベス』の中の一曲。このオペラは黒人のみのキャストで当時フォーク・オペラと呼ばれましたが、デュポーズ・ヘイワードが1925年に書いた小説『ポーギー』が基になっています。ガーシュウィンは1926年にこの小説を読んで感動し、ヘイワードにオペラ化を申し入れました。ヘイワードは劇作家の妻ドロシーの協力を得てこの小説を劇化し(まだミュージカルになっていない)、その数年後に他のオペラの作曲を終えたガーシュウィンが本格的に参加。1935年9月、ようやく全3幕9場の『ポーギーとベス』が完成し、1935年10月10日、演出ルーベン・マムリーアン、主演トッド・ダンカン(ポーギー)とアン・ブラウン(ベス)によりブロードウェイのマルヴィン劇場でオープン、124回公演となりました。台本はヘイワード、歌詞はジョージの兄アイラ・ガーシュウィンが書いています。ガーシュウィンの死後に再認識されて全米各地、ヨーロッパで上演され、ガーシュウィンの最高作、アメリカのオペラの最高傑作と評価されています。1959年には映画化され、シドニー・ポワチエとドロシー・ダンドリッジが主演、ダイアン・キャロルが歌っています。映画、ミュージカル、ともにこの曲は赤ん坊を寝かしつけるための子守歌として歌われています。
さてこの曲を取上げているアーティストですが、ジャズ界だけにとどまらず、ポップスからロック、R&Bまで実に幅が広いのには驚かされます。まずは初のジャズ・バージョンとして注目されたビリー・ホリデイ。その後、シドニー・ベシェ、エラ・フィッツジェラルド、ダイナ・ワシントン、シャーリー・ホーン、ジュリー・ロンドン、サラ・ボーン、ヘレン・メリルなど多くの歌手が歌っています。インストではまずチャーリー・パーカーがストリングスをバックに、アドリブの天才としての才能を遺憾なく発揮しています。他にはマイルス・デイビス、ジョン・コルトレーン、ハンク・ジョーンズ、スタン・ゲッツ、ジョージ・ベンソン、ビル・エバンス、ソニー・クリス、ジョー・ヘンダーソンなどジャズ界の錚々たるプレイヤーが取上げています。個人的にはポール・デスモンドのクールで柔らかなアルトが大好きです。ハービー・ハンコックはジョニ・ミッチェルのボーカルのバックで、スティービー・ワンダー、ウェイン・ショーターという豪華な顔ぶれのソロイストたちとピアノを弾いています。またロック界ではジャニス・ジョブリン、ソウル・R&Bではルー・ロウズもこの曲を取上げています。素朴な男性ア・カペラの曲もじっくりと聴き応えがあります。
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簡単にこのオペラの内容をご紹介しましょう。
第1幕
サウス・カロライナ州チャールストンの河岸、黒人達のたまり場の長屋。若い漁師ジェイクの妻、クララが赤ん坊を抱いて子守歌を歌う。足の不自由な青年、ポーギーたちがゲームをしている時、ヤクザ者クラウンが情婦ベスを連れて現れ、ゲームに参加する。そこでいさかいが起こり、クラウンはロビンズを殺して逃げる。クラウンの情婦ベスは途方にくれて親切なポーギーの部屋に身を寄せることになる。 |
第2幕
1ヵ月後、2人は親密な関係になる。ある日ベスは長屋の人たちとキティワ島へピクニックに行くがポーギーは残る。島でベスは隠れていたクラウンに捕まるが、1週間後ポーギーの許へ逃げる。5日後、嵐の日にクラウンが姿を現す。荒れた海へ漁に出たジェイクの妻クララは狂気のうちに外に出て行く。クララの身を案じるベスに応え、クラウンは足が不自由なポーギーを嘲りながら外へ助けに向かう。 |
第3幕
クララとジェイクが戻らないまま、今度はベスが2人の赤ん坊を抱いて子守歌を歌う。翌日の夜クラウンは長屋に帰ってくる。そこへナイフを持ったポーギーが現れ、格闘の末クラウンを殺す。彼は警察に拘留されベスは悲嘆にくれる。そこへ麻薬密売人スポーティング・ライフが現れ、ベスを誘惑してニューヨークへ連れ去る。1週間後に戻ったポーギーは、山羊の引く車椅子に乗って遠いニューヨークへベスを探しに行く。 |
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夏は暮らしやすいよ
魚は跳ねるし 綿花は育つ
ダディ金持ち マミーはきれい
だからいい子だ 泣かないで
とまさに子守歌。でも単純にああ夏っていいなあという詩ではありません。当時の南部黒人の生活の貧困さや人種差別が前提にあり、そういう黒人たちにとって赤ん坊は「希望」であり、「未来」を象徴する存在でもありました。虐げられた者たちの夢を歌い、希望を棄てるなと歌っています。どんなに過酷で悲惨な状況でも未来はある、と歌っているのです。
ところでこの曲、どことなくある曲に似ていると思いませんか。そう、St.Louis Blues!出だしのメロディーなんか特にそうですよね。ガーシュウィンもそれは認めているようですが、実際に強く影響を受けたというか、インスパイアされたのは黒人霊歌の『時には母のない子のように』だったようです。やはりジャズのルーツは行き着くところ黒人霊歌ということになるのでしょうか。
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